生物や人間は世界をそのまま認識しているのではなく、予測と現実の差分を通して世界を認識していると考えられる。
内部モデル(予測)と現実の入力との差が生じたとき、その差分が学習・行動・認識のすべての起点となる。
予測
↓
現実
↓
差分(Prediction Error)
この差分は、制御理論では誤差、機械学習では教師信号、神経科学では予測誤差と呼ばれるものであり、生物・AI・制御系に共通して存在する基本概念である。
AIや制御系は差分を数値として扱い、修正を行う。しかし生物はそうではない。生物は差分を
・痛い
・怖い
・嬉しい
・不安
・驚き
・安心
といった主観的な感じ(感情・クオリア)として経験する。
問題はここである。
なぜ差分は単なる誤差ではなく、感じとして経験されるのか。
生物は常に時間制約の中で生きている。
| 状況 | 判断に使える時間 |
|---|---|
| 火に触れる | 0.1秒 |
| 車が来る | 0.5秒 |
| 敵が来る | 1秒 |
| 食料探し | 数時間 |
| 人生計画 | 数年 |
すべてを論理的に考えてから行動していたら、生物は生き残れない。
したがって生物には即時に行動を決定する処理系が必要になる。
人間の認知構造は二重構造になる。
| 処理系 | 役割 | 特徴 |
|---|---|---|
| 速い処理系 | 即時判断・行動 | 感情・直感・反射 |
| 遅い処理系 | 思考・計画・言語 | 論理・分析 |
心理学ではこれをシステム1 / システム2と呼ぶ。
ここで重要な点は、
感じ(感情・クオリア)は速い処理系の出力である
という位置づけができること。
差分は単なる誤差ではなく、生物にとっては
・危険
・損失
・利益
・予測外
・機会
・不確実性
といった生存に関わる価値情報を含んでいる。
しかしそれを毎回数値計算していたら間に合わない。
そこで生物は差分を圧縮し、即時行動に変換する信号として表現する必要があった。
それが感じ(感情・クオリア)である。
差分
↓
重要度・価値評価
↓
感じ(痛い・怖い・嬉しい・不安)
↓
行動
差分は生物において三つの役割を持つと考えられる。
| 差分の役割 | 機能 |
|---|---|
| 学習 | 内部モデルの更新 |
| 行動 | 即時修正・回避・接近 |
| 主観 | 感じ(クオリア・感情) |
つまり同じ差分が
・AIでは誤差
・制御では偏差
・学習では教師信号
・生物では価値信号
・主観では感じ
として現れているだけである。
これは非常に統一的な説明になる。
人間は通常、自分が
理解 → 判断 → 行動
していると思っているが、実際には逆である可能性が高い。
実際の順序はおそらくこうである。
差分
↓
感じ(速い処理系)
↓
行動
↓
思考(遅い処理系)
↓
理解
↓
学習
つまり
人間は世界を理解してから行動しているのではなく、
まず感じて行動し、その後に思考が理由を説明している。
このモデルにおいてクオリアは次のように位置づけられる。
クオリアとは、差分の価値評価が内部表現として経験されたものである。
言い換えると、
クオリア = 差分の価値信号の主観的表現
となる。
予測
↓
現実
↓
差分
↓
① 速い処理系(システム1)
→ 感じ(感情・クオリア)
→ 即時行動
② 遅い処理系(システム2)
→ 思考・言語・論理
→ 理解・計画
↓
内部モデル更新(学習)
すべての出発点は差分である。
・感情
・行動
・思考
・学習
・主観
・クオリア
これらはすべて差分から派生する処理である。
生物は世界を理解するために思考しているのではなく、
生存のためにまず差分を評価し、
その評価が感じとして現れ、
その後に思考が世界を説明し、
学習によって内部モデルを更新している。
差分は外部から見れば誤差であり、
学習系では教師信号であり、
制御系では偏差であり、
生物内部では価値信号となり、
主観としては感じ(クオリア)として経験される。